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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)48号 判決

香港・アイス・ハウス・ストリート九・ホランドハウス四〇二

原告

ゴールデン・ケミカル・プロダクツ・リミテッド

(日本における営業所)

東京都港区白金台二丁目九番六号白金光和ビル

ゴールデン・ケミカル・プロダクツ・リミテッド日本支社

右代表者

ギャリー・ロナルド・ウォールズ

右訴訟代理人弁護士

高橋薫

井上章子

木南直樹

伊佐次啓二

東京都港区芝五―八―一

被告

芝税務署長

白岩光則

右指定代理人

高須要子

小林康行

竹下文男

佐々木正男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五三年二月二七日付けでした原告の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日及び昭和五〇年一月一日までの事業年度分法人税の各更正並びに過少申告加算税の各賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、家庭用洗剤等の輸入販売を業とし、香港に本社を置き、日本に営業所(以下「日本支社」という。)を有する外国法人である。

2  原告の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和四九年期」という。)分法人税の確定申告、修正申告、これに対し被告がした各更正、右法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定、原告のした異議申立て及び審査請求並びに国税不服審判署長のした審査採決の経緯は、別表一記載のとおりである。

3  原告の昭和五〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和五〇年期」という。)分法人税の確定申告、これに対し被告がした各更正、右法人税に係る過少申告加算税の賦課決定、原告のした異議申立て及び審査請求並びに国税不服審判所長のした審査裁決の経緯は、別表二記載のとおりである。

4  しかしながら、被告が本件係争事業年度分各法人税につき昭和五三年二月二七日付けでした各更正(以下「本件各更正」という。)には、原告の所得を過大に認定した違法があり、したがつて、これを前提としてた過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各決定」といい、本件各更正とあわせて「本件各処分」という。)も、また違法である。

5  よつて、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は認める。同4及び5は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和四九年期分法人税の課税標準となるべき所得金額は三億二七六四万五二五三円であるが、その内訳は別表三記載のとおりであり、その算定根拠は次のとおりである。

(一) 研修費否認 一億六七九三万三〇四七円

原告は、その販売代理店であるゼネラル デイストリビューター(以下「ゼネラル」という。)のために本期中五回にわたつて香港において販売方法等の研修(以下「香港研修」という。)を実施し、その費用として、二億二一三六万四二〇〇円を本期の損金の額に算入していたものであるが、右研修費の額は後記3、(二)、(1)のとおり、五三四三万一一五三円が正当というべきであるから、これを超えた一億六七九三万三〇四七円の損金算入を否認すべきである。

(二) フランチヤイズフイ否認一四四五万一九六〇円

香港本社は、ゴールデン・プロダクツ・インターナショナル(以下「GPI社」という。)とフランチヤイズ契約を締結していたところ、原告は、同契約に係る販売援助等の対価として売上総額の四パーセントに相当するフランチヤイズフイ七二二五万九八〇〇円を本期の損金の額に算入していたものであるが、同契約によれば、フランチヤイズフイの計算基準である売上総額に乗ずる四パーセントの内訳は、商標使用に係る〇・八パーセント、製造ノーハウに係る〇・八パーセント及び販売援助に係る二・四パーセントの合計であつて、原告としては日本国内において製造業務を行つていないのであるから、製造ノーハウに係るフランチヤイズフイを支払う必要はなく、原告の経費であるということはできないのであり、これに係る〇・八パーセント相当額一四四五万一九六〇円の損金算入を否認すべきものである。

(三) 収益計上もれ 四一三七万円

右金額は、原告がゼネラルデイストリビューター契約書に基づき本期中にダイレクト・デイストリビューター(以下「ダイレクト」という。)をゼネラルに指名するに当たりダイレクトから徴収した研修費充当金のうち未受講者に係る合計金額であるところ、原告は、これを預り金に計上していたものであるが、されは、右徴収したときの収益とすべきものであるから、これを益金の額に加算すべきものである。

(四) 仕入経費否認 二六三九万九四〇〇円

右金額は原告の仕入先である香港本社が昭和四九年九月九日付けで仕入代金の追加額として原告に対し請求をしていた金額に係るものであり、原告は、これを仕入金額に算入していたものであるが、右仕入代金の追加請求額は香港本社が原告との仕入取引後において、一方的に為替レートを変更したことに基づて算出したものであつて、原告の仕入に係る経費とは認められないことから、損金算入を否認すべきものである。

(五) 納税充当金認否 三〇〇〇円

右金額は、原告が事前事業年度から繰越していた納税充当金を当期において益金に戻入れていたものであるが、これは益金となるものではないので、益金の額から減算すべきものである。

(六) 未納事業税認否 三四五万九〇六〇円

これは、原告の前事業年度の法人税の更正処分により増加した所得金額に係る事業税相当額であり、これを損金の額に算入すべきものである。

2  原告の昭和五〇年期分法人税の課税標準となるべき所得金額は九八九五万二七一三円であるが、その内訳は別表四記載のとおりであり、その算定根拠は次のとおりである。

(一) 研修費否認 一億五四四九万六三六三円

原告は、本期中においてもゼネラルのために四回にわたり香港研修を実施し、その費用として、二億八六八万六六〇〇円を本期の損金の額に算入していたものであるが、右研修費の額は後記3、(二)、(2)のとおり、五四一九万二三七円が正当とういべきであるからこれを超えた一億五四四九万六三六三円の損金算入を否認すべきもはのである。

(二) フランチヤイズフイ否認 一六六〇万九一七九円

右金額は、前記一、1、(二)で主張したと同じく、原告がフランチヤイズフイとして八三〇四万五八九九円を本期の損金の額に算入していたものであるが、製造ノーハウに係る〇・八パーセント相当額一六六〇万九一七九円は損金算入を否認すべきものである。

(三) 退職給与引当金繰入否認 一九三万五七三一円

右金額は、原告が退職給与引当金の繰入額として損金の額に算入していたものであるが、原告は、本期に未だ政令で定める退職給与規定を定めていなかったので、法人税法五五条一項の規定に基づき右損金算入を否認すべきものである。

(四) 交際費損金不算入額 一二四九万三四一五円

右金額は、原告が交際費勘定に経理していた二〇三万四二円と次表のとおり、原告が旅費交通費ないしは研修費勘定で経理していたうち、摘要欄記載のとおりの交際接待費と認められる費用に使途していた金額との合計額に租税特別措置法六二条の規定を適用して送金に算入できない金額を計算したものである。

〈省略〉

(五) 未払事業税認容 二〇一五万一八四〇円

これらは、原告の前事業年度の法人税の更正処分により増加した所得金額に係る事業税相当額であり、損金の額に算入すべきものである。

3(一)  原告は、日本国内のゼネラルを対象に香港研修を実施し、この研修に伴い香港本社から送金指示された金員を送金して、これを研修に係る費用として損金の額に算入(右送金に係る金員を以下「香港研修費」という。)していたものであるが、原処分調査担当者が原告にその支出明細につき具体的説明を求めたにもかかわらず、原告は「本社の経理を明らかにすることはできない」とか、「本社のしかるべき人が不在である」等と言つて右係官の求めに応じようとしなたつた。

しかしながら、原告は、右研修に係る教材費及び航空運賃等については、香港研修費とは別途に損金経理をしていることから、香港研修に係るものは専ら現地滞在に伴う費用であると認めることができるので、以下のとおり算出した香港研修に伴う滞在費(以下「研修滞在費」という。)を超えた香港研修費(以下「研修剰余金」という。)については、損金算入を否認すべきである。

(二)  研修滞在費額は、一人当たりの滞在費を求め、これに香港研修に参加した人数分を乗じて算出したものであるところ、本件各係争事業年度の研修費否認額(研修剰余金)の計算明細は、次のとおりである。

(1) 昭和四九年期

〈イ〉 香港研修期間と香港研修費

〈省略〉

〈ロ〉 一人当たりの滞在費用

〈省略〉

〈ハ〉 研修参加人数

〈省略〉

〈ニ〉 研修費否認額の計算

〈省略〉

(注) 円換算率は東京銀行対顧客電信売相場による。

(1) 昭和五〇年期

〈イ〉 香港研修期間と香港研修費

〈省略〉

〈ロ〉 一人当たりの滞在費用

〈省略〉

〈ハ〉 研修参加人数

〈省略〉

〈ニ〉 研修費否認額の計算

〈省略〉

(注) 円換算率は東京銀行対顧客電信売相場による。

(三)  ところで、原告は、香港研修は原告が採用している特殊な販売方法を開発し、原告に販売指導等を行つているGPI社に委託して実施したものてあり、香港研修額は原告がGPI社に対して支払つた委託講習料であると主張する。

しかしながら、原告は、係官の調査に対して、香港研修費の支出明細を明らかにしようとしなかつたばかりではなく、香港研修を委託でもつてなしたものである旨の説明ないしは申し立てもしていなかつたのである。かえつて、原告の代表者で、かつ、香港研修にも参加して、その実体を一二分に承知している高橋利一郎の申述によれば、「香港研修は原告が企画し、開催、運営している」ものであるというのである。このことと、〈1〉香港研修期間中の宿泊ホテル及び研修会場であつたシエラトンホテルが直接原告に対して、右宿泊費用及び研修会場費用についての金額を提示していること、〈2〉香港研修に際しては、高橋利一郎ほか原告の従業員が同行して、ゼネラルに対して一切の世話をしていること、〈3〉高橋利一郎がシエラトンホテルに対して香港研修に係る宿泊費用を支払つていること、〈4〉原告は香港の研修の渡航運賃を支払いこれを原告の費用として香港研修費とは別途に計上していること及び〈5〉原告は香港研修費に係る金員を直接GPI社に送金して支払うことなく、香港本社に対して送金していること等を総合勘案すれば、香港研修が委託研修であるとは到底認め難いものといわなければならないのである。

(四)  研修剰余金が損金の額に算入されるべきものでないことは、右剰余金が実質的にGPI社に対する利益配当金の性質を有するものであることからも明らかである。

すなわち、次のような事実からすれば、原告は、実質的には、GPI社の子会社であつてGPI社の完全な管理、監督下において事業活動を行っていたものと認めることができる。

(1) アメリカ人ジエリー・ブラスフイールド(以下「ブラスフイールド」という)は、自己の企画・発案に係る販売方法(いわおるマルチ商法)を用いてその取扱賞品を外国において販売するために、世界各地に系列会社を設立することを企画し、その事務処理をアメリカ合衆国の公認会計士であるボイド・デイールに依頼したものであり、ボイド・デイールはブラスフイールドの依頼を受けて、昭和四五年ごろに、GPI社を設立したのをはじめとして同社の系列下に、ゴールデン・プロダクト・オーストリア、ゴールデン・プロダクト・ジャーマニー及びゴールデン・プロダクトカナダなどの外国会社を設立してほか、香港には原告を設立したものであること。

(2) GPI社は、パナマ共和国法人として設立された法人であるが、現在に至るまでパナマ国内に事務所を設けたことは一度もなく、設立当時においては、その役員及び従業員の多くはアメリカ合衆国に居住しており、その報酬、給与は、ポイド・デイールが代理人として支払っていたものであること。

(3) ブラスフイールドらがGPI社をパナマ共和国法人として設立した主たる目的は、アメリカ国内における税制の問題に対処するためであつたこと(なお、パナマ共和国は、いわゆるタックス・ヘイブン国(国外源泉所得軽課税国)として著名な国家であつて(昭和五三年三月三一日付け大蔵省告示第三八号の別表第二)、各国の企業が租税回避の目的で、同国に、いわゆるペーパ会社を設けることは、よく知られているところである。)。

(4) ブラスフイールドらがGPI社が設立した目的は、〈1〉GPI社の系列下にある各外国会社にフランチャイズを与え、その対価としてフランチャイジーズ・フイーを収受すること〈2〉GPI社が名フランチヤイジーの経営活動・経営等全てを監督し、セールスプロモーションをすること及び〈3〉フランチヤイジーの所属する各国特有の法律問題等に対応することにあつたものであること。

(5) 原告の香港本社がその営業費等を支出する場合においても、GPI社の指示、監督下に行われていたものであり、ゼネラル・スクールの開催場所を選定する際においても、原告の香港本社の独断で行うことができず、必ず、ボイド・デイールなどのGPI社の役員を同行し、その指示を仰がなければならない仕組になつていたこと。

(6) 原告の日本支社が昭和四七年四月二六日被告に対して提出した「外国普通法人となつた届出書」に添付されている基本定款によれば、「原告の資本金は、それぞれ一〇ドルの株式三、〇〇〇株より成るものとして、その総額は三万ドルとする」旨記載されているところ、設立発起人は二者(いずれも香港に居住等している者)であり、同人らの引受株式の総数はわずか二株(額面金額の合計額二〇ドル)のみであるところ、その余の株式引受人は、前述のようなGPI社と原告の関係からするならば、GPI社であると推認できるのである。

以上のような事実から、原告は実質的にはGPI社の子会社であると認めるので研修剰余金は、実質的にはGPI社に対する利益配当金であると認められるものであり、もとより原告の日本国内源泉所得金額の計算上、損金の額に算入されるべきものではない。

(五)  仮に、研修剰余金がGPI社に対する利益配当金と認めることができないとしても、右金員は、役務の対価たる性質を何ら有しないものであるから、原告とGPI社に対する単なる贈与金すなわち寄付金とみるほかないことになる。そして、原告は右金員を、原告のGPI社とが資本的、経営的な面において系列関係にあるという特殊な事情に基づいて支出したのであるから、右金員は法人税法二二条三項二号所定の販売費、一般管理費その他の費用に該当せず、同条項三号に規定する損失に該当することとなる。

ところで、外国法人の国内源泉所得に係る所得の金額の計算においては、法人税二二条三項三号に規定する損失の額は、外国法人の国内において行う業務又は国内にある資産につき生じた損失の額に限るものとされ、右に該当しない外国法人のついては、当該外国法人の国内源泉所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととされている(法人税法一四二条・同法施行令一八八条一項一号)。

本件においては、原告の香港本社が本件研修剰余金をGPI社に対して送金したことによつて損金が生じたというのにすぎないのであるから、当該損失金は、原告の国内において行う業務又は、国内にある資産につき生じた損失金に該当しないのである。したがつて、本件研修剰余金を原告の本件各係争事業年度の国内源泉所得の金額の計算上、損金の額に算入することはできないのである。

(六)(1)  原告は、仮に本件研修が委託研修ではなく、原告によつて行われたものであつたとしても、本件研修は、国外で行われた役務提供であり、これにより生ずる原告の所得は国内源泉所得にならないから、課税対象にならない旨主張する。

右原告の主張が、原告はゼネラルから収受した資格取得金四二万円(右金額は、年度により変更しているが、本件においては便宣、右金額をもつて主張し、これを「本件企画資格取得金」という。)の二分の一に相当する二一万円の一部を香港で実施したゼネラル・スクールの費用として使用したので右金員は、国内源泉所得に係る収益金に該当しないとする趣旨であるならば、以下に述べるとおり、右主張は、矢当である。

〈1〉 原告は、日本国内において洗剤及び化粧品等の輸入、販売を目的とする会社であり、東京都港区白金台二丁目九番六号白金台光和ビル内に営業所を有し、いわゆるマルチ商法的な販売方法で日本国内において、右洗剤等の販売を行つているものである。

原告の右事務活動は、法人税法一三八条一号に規定する日本国内において行う事業に該当し、右事業に係る所得は、同条号所定の国内源泉所得に該当するのである(法人税法施行令一七六条一項一号)。

〈2〉 ところでゼネラルは、原告の日本国内における最上級の販売業者であつて、いわゆる総卸元業者若しくは総問屋に相当する地位を有しているものである。

すなわち、原告の定める一定の資格要件を充たしてゼネラルの地位を取得した者は、洗剤等につき、下位の販売業者であるダイレクトよりも、有利な値引率(例えば、小売価格の四九パーセント引き)で、原告からこれを仕入れることができ、その傘下にあるダイレクトに対しては、マージン込みの価格(例えば、小売価格の四一パーセント引きの価額)で販売し、相当のマージン(例えば、小売価格の八パーセント)を得ることができることとされているのである。

そして、ゼネラルになるためには、次の要件を充たすことが必要とされているのである。

イ ダイレクトの資格を有し、その経験のあること。

ロ 自己がダイレクトとして所属していたゼネラルに対して、自己に代わるべきダイレクトを探がして、当該ゼネラルに所属させること。

ハ 資格取得金として四二万円を原告に対して支払うこと。

〈3〉 右に述べたところから明らかなとおり、ゼネラルは、原告の総卸元業者若しくは総問屋の地位を有する独立の事業者であつて、原告からみれば、その取扱商品である洗剤等の販売先、すなわち得意先であるというべきものである。

また、原告が新たにゼネラルとなる者から収受する資格取得金四二万円は、当該ゼネラルが下位の販売業者(ダイレクトなど)よりも、より有利な条件で原告の取扱商品である洗剤等を購入することができる地位を得るための対価であると認めるのだ相当であるから、右金員は、まさに、原告の日本国内における事業活動に係る収益金であるというべきである。

さすれば、右資格取得金四二万円については、たな卸資金の譲渡に付随して生ずる所得として、国内源泉所得に該当するものであることは、法律上、疑義の生ずる余地がないものというべきである(法人税法施行令一七六条一項一号)。

仮に、原告が右資格取得金四二万円のうちの二分の一に相当する二一万円をゼネラル・スクールへ係る費用として引当て、その一部をゼネラル・スクールの費用として費消したとしても、右資格取得金の全額が国内源泉所得に該当するとの認定判断に何らの消長を来たすものではない。

〈4〉 更に、右二一万円については、法人税法一三八条二号に規定する人的役務の提供に係る対価であると解すべき余地も存しない。

すなわち、原告は、日本国内において洗剤等の販売に係る事業を主たる目的とする会社であつて、法人税法施行令一七九条各号に列挙する人的役務の提供に係る事業を主たる目的とするものではないのであるから、前記二一万円について、法人税法一三八条二号に規定する人的役務の提供に係る対価であるかどうかを論ずる余地はないというべきだからである。

(2) 更に、原告は、本件資格取得金にうち二一万円は、当該ダイレクトの所属していたゼネラルに支払われる金員として、また、その余の二一万円は、ダイレクト夫婦一組当たりのゼネラル・スクール参加費として受領したものであるから、預り金に相当するので、原告の課税所得は減少する(益金の額に算入されない)旨を主張する。

しかしながら、本件資格取得金の性格についてみるに、右金員は原告主張のような単なる預り金ではない。すなわち、原告とゼネラル及びダイレクトとの関係は、関係当事者の各契約書から判断すると、次のようなものであると認められる。

〈1〉 ゼネラル及びダイレクトは、それぞれ原告との間における別個の契約に基づいて、原告製品の販売権者としての地位を取得するものであつて、ゼネラルとそれに所属するダイレクトとの間には直接の法律関係が存しないこと。

〈2〉 ゼネラルは、その所属するダイレクトが原告から購入した製品の購入価格の一〇パーセントに相当する金額を斡旋料として受領することとなつているが、右は原告からゼネラルに対して支払われるものであつて、ゼネラルがダイレクトから直接受領するものではないこと。

〈3〉 ダイレクトがゼネラルに昇格する際には、その所属していたゼネラル(以下「先輩ゼネラル」という。)の有する斡旋料受領権の精算代金の名目で、右昇格ダイレクトは、本件資格取得金に相当する金額(四二万円)を、原告の要求に基づいて、原告に対して支払うこととなつているが、原告は、右金員のうちから原告の定める金額を先輩ゼネラルに支払い、その余の残額については、デイストリビューターの指導、その他のために、原告が取得すること。

〈4〉 原告がゼネラルに対して支払うべき、斡旋料の割合及び斡旋料受領権の精算代金名簿の金額は、原告の販売政策によつて、任意変更されるものであること。

このような事実からすると、ゼネラルもダイレクトも、共に、原告の統制下において、原告の製品を販売する単なる販売業者であつて、その受ける利益金額も、原告の販売政策によつて左右されることになつており、また、原告が受領した本件資格取得金についても、右ゼネラル又はダイレクトは、具体的な金額に基づいて、その返還若しくは分配を求めるべき法律上の地位を有してはいないのである。

更に、新たにゼネラルとなつた者につき、夫婦一組を単位として、香港におけるゼネラル・スクールに招聘するということについても、右契約書上における明文の約定に基づくものではなく、専ら、原告製品の販売に関する右ゼネラルの販売活動に係る意欲を増進させ、もつて、原告製品の販売を促進させようとする意図のもとに行われているものである。

したがつて、本件資格取得金が原告の預り金でないことは明らかであるから、原告の主張は何ら理由がない。

4(一)  原告の所得金額は、右のとおり昭和四九年期三億二七六四万五二五三円、昭和五〇年期九八九五万二七一三円であるところ、本件各更正に係る原告の所得金額は、右金額の範囲内ないしこれと同額であるから、本件各更正は適法である。

(二)  また、右所得金額により原告が新たに納付すべき法人税額に国税通則法六五条一項を適用して算出した本件争各事業年度の過少申告加算税額は、別表五記載のとおりであるところ、本件各決定に係る過少申告加算額は、右金額の範囲内ないしこれと同額であるから、本件各決定もまた適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1冒頭の事実中、別表三〈1〉、〈3〉ないし〈5〉、〈7〉ないし〈9〉はいずれも認め、その余は否認する。同(一)の事実中、原告は、その販売代理店であるゼネラルのために昭和四九年期中に五回にわたつて香港において販売方法等の研修を実施し、その費用として、二億二一三六万四二〇〇円を当期の損金の額に算入していたことは認めるが、その余は否認する。同(二)ないし(六)の各事実はいずれも認める。

2  同2冒頭の事実中、別表四〈1〉、〈3〉ないし〈5〉、〈7〉はいずれも認め、その余は否認する。同(一)の事実中、原告が昭和五〇年期中においてもゼネラルのために四回にわたり香港研修を実施し、その費用として、二億〇八六八万六六〇〇円を当期の損金の額に算入していたことは認めるが、その余は否認する。同(二)ないし(五)の各事実はいずれも認める。

3  同3(一)は争う。同(二)のうち(1)〈イ〉及び〈ハ〉ならびに(2)〈イ〉及び〈ハ〉は認めるが、その余は否認する。同(三)の事実中、〈2〉香港研修に際しては、高橋利一郎ほか原告の従業員が同行して、ゼネラルに対して世話をしていること、〈3〉高橋利一郎がシエラトンホテルに対して香港研修に係る宿泊費用の一部を代行して支払つたという外形的事実、〈4〉原告は香港研修の渡航費である航空運賃を支払い、これを原告の費用として香港研修費とは別途に計上していること及び〈5〉原告は香港研修費に係る金員を直接GPI社に送金して支払うことなく、香港本社に対して送金していることはいずれも認めるが、その余は争う、同(四)ないし(六)は争う。

4  同4(一)及び(二)は争う。

五  原告の反論

1  本件研修が委託研修であることについて

(一) 原告の販売方法は、店舗を有しない個人をその販売実績等に従い、三段階の販売代理店に選任し、マスコミ等による広告をしないで、ホームパーテイの開催や訪問販売等により直接消費者に販売するという特異な方法を採用していた。このような販売方法はGPI社が開発したものであり、同社は、原告のほか世界数か国の独立した会社とフランチャイズ契約を行つて右販売方法を指導し、その対価としてフランチヤイズフイや講習料を取得していた。日本支社はGPI社との提携を前提として昭和四七年一月設立されたものであるが、原告の営業基盤は、この特異な販売方法によつて競争の激しい日本の洗剤市場で販売を拡張していくことであつたから、GPI社の指導に頼らざるを得ない立場にあつた。

(二) 香港研修は、その参加者であるゼネラルとの関係においては、原告が企画し、開催運営したものであるが、本来は右のようにGPI社が開発したものであり、原告は、その実施を同社に委託して行つたものである。このように香港研修のがGPI社に委託して行われた研修であることは、〈1〉昭和四九年三月、五月及び六月の香港研修の送金のため日銀へ提出された支払許可申請書及びその添付書類に送金の目的及び理由が記載されていること、〈2〉ことに、同年四月一七日付け支払許可申請書の「7、その他の参考事項」の欄に「香港におけるセールスマン委託研修費」と明記されていること(なお、前記申請書の添付書類をみると、香港研修の受託者がGPI社でなく、IMMI社であるかのように見えるが、IMMI社はGPI社のコンサルタント兼代理人として原告に連絡して来たものである。)、〈3〉GPI社は世界数か国にある他のフランチヤイジー(契約者)に対しても同様のゼネラル・スクールを開いていたこと、〈4〉原告本社とGPI社との間には昭和四六年一二月一五日付けフランチヤイズ契約があつたこと、〈5〉原告のゼネラル・スクールへの招待状に招待者がGPI社であることが明記されていること、〈6〉GPI社と香港本社間のゼネラル・スクール契約書が存在すること等の諸事情にかんがみても明らかというべきである。

(三) 本件研修費は一人当たり四〇〇ないし六〇〇米ドルであつたが、右金額は、本件ゼネラル・スクールが内容のある講義やスケジュールが盛り込まれ、かつ、一流ホテルでの三泊四日の宿泊と食事付きであることにかんがみると、委託研修費としても決して著しく高額とはいえない、すなわち、一人当たりの研修費送金額四〇〇米ドル(約一二万円)のうち約九万円は実費に要しており、約三万円が受託業者の荒利益となるが、右利益の中には、教材費、講師代、授業法、教材開発費、一般管理費等が含まれており、この種ビジネス・セミナーとしては、むしろ非常に低い方である。また、その後一人当たりの研修費は、原告がゼネラルから受領した夫婦当たり二一万円の研修費より高額であつたが、ゼネラル・スクールへの参加資格(ダイレクトと呼ばれる販売員二人を養成し、これらの者に、合計八八万円の商品代や講習料を原告に支払わせなければならない。)や、スクール会場でも商品の売上げ、参加後における売上げの増加等を考慮すれば、原告は香港研修により実質的に利益を上げていたばかりでなく、右研修は営業上不可欠なものであつた。

(四) 被告は、原告が被告所部係官の調査に対して本件研修費の内容につき十分な説明をしなかつたと主張するが、日本支社の代表者等は、香港本社から、原告の経理内容について外部へ開示することは必要最少限度にとどめるよう厳重に指示されていた。また、香港研修中、原告の代表者らが直接ホテルと接触し、ホテル代等の支払いを行つたことがたまたまあつたとしても、それは、原告がGPI社の事務を代行したものにすぎない。更に、日本支社の従業員が同行して研修参加者の世話をしたのは、原告が自分のゼネラルのために委託して開催した研修であるので当然のことであるし、研修費の送金先が香港本社であつても、原告が香港におけるゼネラル・スクールの諸費用をGPI社に指示に従つて代行して支払い、残余をGPI社に送金していたものであるから、右事実はいずれも、本件研修が委託研修であることを否定する根拠とはなり得ない。また、航空運賃は委託研修費の中に入つていなかつたのであるから、これを別途損金に計上するのは当然である。

(五) 以上を要するに、香港研修は、原告がGPI社に委託して行つた委託研修であり、これに要した香港研修費は全額営業上の経費として損金に算入すべきである。

2  研修剰余金の性格について

(一) 被告は、原告をGPI社の子会社と決めつけ、香港研修に関し原告からGPI社に送金された金額のうち、滞在費等の実費を除いた部分は、原告のGPI社に対する利益配当であると即断している。しかし、その決定的理由であるべき資本関係については、子会社であることを示す事実の証拠は何もないばかりか、原告の発行済株式三〇〇〇株のうち二九九八株はGPI社と推認さるという単なる独断により、子会社であると結論しているのである。仮に原告がその経営についてGPI社の指示、指導を実質的に仰いでいたとしても、それ故に原告がGPI社の子会社と断ずることは、全く無謀である。世間におけるフランチヤイズ店、チエーン店等は、全く資本関係のない、それぞれ独立した会社又は個人が契約によつて提携ないし系列関係にあり、その経営についてフランチヤイズ料等を支払つて、フランチヤイザーの指導、提示を受けている例が多いことは、公知の事実である。また、仮に、GPI社がいわゆるペーパー会社であつたとしても、そのこと自体が原告がGPI社の子会社であるとの理由に何故なり得るのか不明であるばかりか、一方で、被告は、同社がそのその役員及び従業員の多くはアメリカ合衆国に居住しており、しかも原告の経営について実質的に監督していた旨を主張し、GPI社がペーパー会社などではなく、実質的な活動実体を有していた旨述べており、前後相矛盾する主張を行つているのである。しかも、被告は、原告がGPI社の実質的な子会社であると述べており、これを株式所有関係はないとの意味であるとするならば、何故自社の株式を所有していないGPI社に対して原告が利益配当を行い得るのか理解し難い。また、以上の諸点はさておくとしても、配当というものは、ある決算期について会計上の損益処理を行つたうえ、株主総会等の決議を経て確定的な金額をもつて行われるものである。したがつて、本件研修剰余金が原告のGPI社に対する利益配当であるとする被告の主張は全く理由がない。

(二) また、被告は、研修剰余金はGPI社の役務の対価ではなく、同社に対する原告の単なる贈与、寄付金である旨を主張するが、本件ゼネラル・スクールはGPI社に委託して行われたものであり、研修剰余金がGPI社による研修実施という役務に対する合理的な対価の一部であることは前記のとおりであるから、被告の右主張は理由がない。

3  研修剰余金の一部は国内源泉所得でないことについて仮に本件研修が委託研修ではなく、原告によつて行われたものであつたとしても、本件研修は国外で行われた役務提供であり、これにより生ずる原告の所得は国内源泉所得にならないから、課税対象にならないと考えられる。

すなわち、日本支社は本件資格取得金四二万円のうち二一万円はダイレクト夫婦一組当たりゼネラル・スクール参加費として、また、残りの二一万円は日本支社より当該ダイレクトの所属したゼネラルに支払われる金員として、その旨相互に合意のうえ当該ダイレクトから受領している。このゼネラルに支払われる金員は、ダイレクトが自らの所属していたゼネラルから独立して新たに自分を頂点とするゼネラルグループを作るに際し、自分がそれまで世話になつたことに対する謝礼金であるとともに、新たにゼネラルに昇格することに対する一種の権利金である。この意味において右金員はゼネラルに昇格するダイレクトが有利な条件で商品を購入するための対価であるといい得る。そして、このようにして販売組織がいわば核分裂して拡大していくことによつて原告は結果的に利益を得ることができるのであるから、日本支社自身はこのような権利金的対価の支払いを受ける必要性は全く存せず、現実に日本支社は右金員を全額ゼネラルに支払つている。

一方、ゼネラル・スクールの参加費は、あくまで実際に開催される香港研修に対する対価であり、やむを得ない事情によつて参加できなかつたダイレクトに対しては全額返金していたのである。したがって、日本支社は、その会計帳簿上右参加費を香港研修実施までは「預り金」として計上していた。このことはとりもなおさず、香港研修が少なくとも日本支社自らの事業活動とされていなかつたことを示すものである。

したがつて、本件研修に関し、原告が参加者から徴収したゼネラル・スクール参加費は、そもそも国内源泉所得とならないから、課税対象所得とはなり得ないものである。

ところで、昭和四九年期及び昭和五〇年期において、香港研修の参加費を支払つた者の数(ただし、夫婦一組を単位とする)及び参加費の合計額は、昭和四九年期一〇〇四組二億一〇八四万円、昭和五〇年期八六〇組一億八〇六〇万円であるところ、これらはいずれも原告の益金に算入すべきではないのである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録の証書目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実及び被告の主張1の事実中、原告の昭和四九年期の課税標準となるべき所得金額のうち別表三〈1〉、〈3〉ないし〈5〉、〈7〉ないし〈9〉、並びに同2の事実中、原告の昭和五〇年期の課税標準となるべき所得金額のうち別表四〈1〉、〈3〉ないし〈5〉及び〈7〉は、いずれも当事者間に争いがない。

二1  それぞれ別表四〈2〉の研修費否認額について判断する。

(一)  原告及びGPI社並びにIMMI社の関係につて請求原因1の事実は、前記のとおり、当事者間に争いがなく、右事実に成立に争いのない乙第二一、第二七、第四〇号証、原本の存在、成立ともに争いのない甲第二〇号証、乙第八、第三五号証、証人高橋利一郎、証人ボイド・デイールの各証言を総合すれば、次の事実が認められる。

アメリカ人ブラスフイールドは、自己の企画・発案に係る販売方法(いわゆるマルチ商法)を用いてその取扱商品を外国において販売するために、世界各地に系列会社を設立することを企画し、その中心的存在としてアメリカ合衆国サンフランシスコに本社を置くビジネス・コンサルタント会社であるIMMI社を設立し、更に、公認会計士ボイド・デイールらとともに、その系列下に洗剤、化粧品を扱うGNDI社、自動車用添加剤を扱うGPI社、警報機を扱うGPI社、女性用下着を扱うGMWI社をそれぞれ設立した。ボイド・デイールは、昭和四五年ころパナマ共和国に本社を置く右GPI社の設立手続に関与したのを始め、同社の系列下にゴールデン・プロダクト・オーストラリア、ゴールデン・プロダクト・ジャーマニー及びゴールデン・プロダクトカナダ等の直接販売会社を設立したほか、香港に原告を設立した。

ブラスフイールドらがGPI社を設立した目的は、〈1〉同社の系列化にある各国直販会社にフランチヤイズを与え、その対価としてフランチヤイズ・フイを収受すること、〈2〉GPI社が各フランチヤイジーの経営活動、経理等を監督し、販売方法をセールスプロモーションすること、〈3〉フランチヤイジーの所属する各国特有の法律問題に対処することにあつた。また、ブラスフイールドらがGPI社をパナマ共和国法人として設立した目的の一つは、アメリカ国内における税制の問題に対処するためであつた(昭和五三年大蔵省告示第三八号別表第二によれば、パナマ共和国の国外源泉所得軽課税国として掲げられている。)。GPI社の役員のうち、ボイド・デイール、コルヴイン、カルドウエル等はIMMI社の役員を兼ねており、多くの場合、IMMI社がGPI社を代理してその業務を行つていた。GPI社は、昭和四六年ころまではパナマ国内に事務所が存在したが、約三〇名の従業員多くはアメリカ合衆国に居住しており、その報酬、給与は、ボイド・デイールがGPI社の代理人として支払つていた。また、同社は、設立後間もない同年終わりころには、事務所をスイス国のニヨンに移転した。

原告は、洗剤、化粧品等の輸入、販売等を目的とする会社であるが、昭和四六年当時、我が国では外資一〇〇パーセントの会社を設立することは法律上困難であつたため、昭和四六年一二月二四日香港に本社が設立され、次いで翌年一月三一日我が国において営業所が開設された、高橋利一郎は昭和四七年一二月九日日本支社の代表者に、昭和五〇年一月一日に原告の取締役に就任した。また、デープ・モリは昭和四七年四月二九日に原告の取締役に、昭和五〇年六月六日に日本支社の代表者に就任し、同日以降昭和五二年一二月八日まで高橋と共同して原告を代表していた、高橋は日本支社の総務経理担当の責任者であり、かつ、税務署、日本銀行、公正取引委員会等との対外的交渉を担当していた。その他、ボイド・デイール、ブラスフイールド、コルヴイン等も原告の役員をしていた。原告は、昭和四六年一二月一五日GPI社と大要次の内容のフランチヤイズ契約(甲第二〇号証)を締結した。その内容は、GPI社が独占的に開発している家庭用及び工業用洗剤(以下「製品」という。)の製造及び販売計画を有することを前提として、GPI社が原告に対し、〈1〉製品の製造、改良、新製品の開発に関する処方(ノーハウ)を提供し、その販売計画に参加させ、販売方法につき教示する。〈2〉販売機構の管理及び適切な営業活動のため日常の営業活動において原告を監督、援助する、〈3〉原告の販売員の日本国内における教育プログラムを監督する等の役務を提供し、これに対して、原告のGPI社に対し右役務提供の対価として原告の総売上げの四パーセントに相当する金員を定期に支払うというものであつた。

以上の事実が認められ、右認定を履すに足りる証拠はない。

(二)  ゼネラルの地位について

成立に争いのない乙第二六、第三二、第三三号証及び証人高橋利一郎の証言を総合すれば、次の事実が認めちれる。

原告は、日本国内においてダイレトクセールシステムの下に洗剤の販売を行つているが、その販売組織には、消費者に直接販売する販売員、その上のダイレトク、更にその上のゼネラルが存在する。

ダイレクトは、原告と自分の下位の販売員との間の倉庫の役割を果すもの、すなわち、下位の販売員からの注文があつた場合、商品を出荷するものである一方、自分自身も直接消費者に販売できる立場にあるものである。ダイレクトになるには、〈1〉洗剤二九ケースを一度に購入すること又は、〈2〉一か月間に洗剤二九ケースを購入することのいずれかの資格要件を充足する必要があり、ダイレクトになると、原告から洗剤を小売価格の四一パーセント引きで購入することができる。

ゼネラルは、ダイレクトを経験した後にその地位につくものであり、原告の日本国内における最上級の販売員であつて、いゆる総卸元業者あるいは総問屋に相当する地位を有している。ゼネラルになるには、〈1〉ダイレクトの資格を有し、その経験のあること、〈2〉自分がダイレクトとして所属していたゼネラルに対して、自己に代わるべきダイレクトを探して、当該ゼネラルに所属させること、〈3〉資格取得金として原告の指定する金員(昭和四九年当時四二万円)を原告に払い込むこと、以上の三要件のすべてを充足することが必要である。ゼネラルになつた者は、ダイレクトよりも更に有利な値引率(例えば小売価格の四九パーセント引き)で原告から洗剤を仕入れることができ、その傘下にあるダイレクトに対しては、マージン込みの価額(例えば小売価格の四一パーセント引き)で販売し、利益(例えば八パーセントのマージン)を得ることができる。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  香港研修について

被告の主張1(一)の事実中、原告は、ゼネラルのために昭和四九年期中に五回にわたつて香港において販売方法等の研修を実施したこと、同2(一)の事実中、原告は昭和五〇年期中においても同様四回にわたり香港研修を実施したこと、同3(二)(1)〈イ〉及び〈ハ〉並びに(2)〈イ〉及び〈ハ〉の各事実は、当事業者間に争いがなく、右事実に前掲乙第二六号証、成立に争いのない乙第二二号証、原本の存在、成立ともに争いのない乙第九号証、証人ボイド・デイールの証言により真正に成立したものと認められる乙第一八号証、証人徳弘良樹、同高橋利一郎、同ボイド・デイールの各証言を総合すれば、次の事実が認められる。

原告が販売員を対象として行つていた研修には、〈1〉ダイレクト以上の販売員を対象に月一回実施するダイレクト・スクール、〈2〉全販売員を対象に各地区で毎週土曜日に実施する土曜講習会、〈3〉全販売員を対象に商品知識を高めるためるプロダクト・ゼミナー、〈4〉ゼネラル・スクール、〈5〉ゼネラルの中で更に高度の知識について勉強したい販売員を対象としてキヤリア・コンフエレンス、〈6〉実績と将来性のある者を選考し、GPI社に委託して行うリーダーシツプ・スクールがある。原告は、右研修に際しては、GPI社に講師の派遣を依頼していた。

ゼネラル・スクールに、〈1〉新しくゼネラルになつた者、〈2〉ゼネラルでこれまでスクールに参加したことがない者、〈3〉ゼネラルのうち自費参加を希望し、一定以上の売上げをした者を対象とする研修で、その目的は新しくゼネラルになつた者に対して、販売方法等を教授して一人前のゼネラルになつてもらうこと並びに販売員が他の販売員を獲得する方法、すなわら、下位の販売員を勧誘し、新しく販売員となることを如何に動機づけるかという方法を講習することにある。その方法としては、IMMI社及びその関連会社の幹部や成功したゼネラル等が販売員としての心構え、苦境の際の切り抜け方、自分の体験等を教示するものであるが、ゼネラル・スクールの本来的なねらいは、他の研修と同様原告の採用するダイレクトセール商法(いわゆるマルチ商法)が如何に魅力ある将来性に富んだ仕事であるかを確信させることにあるものである。

原告は、販売員に対するゼネラル・スクールの第一回目を昭和四八年三月ころ東京都内のホテル・パシフイックで、第二回目を同年八月ころ箱根のフジヤホテルで、第三回目を宮城県内のサンフエニックスホテルで行つたものであるが、第四回目以降、原告が昭和四九年期及び昭和五〇年期中に香港において行つた本件ゼネラル・スクール(香港研修)の実施状況は、次のとおりである。

〈省略〉

香港研修の内容は、大要次のとおりである。第一日目は、当日の午後香港に到着した参加者をバスでホテルまで送り、夕刻に歓迎夕食会が催され、講師等の紹介が行われる。二日目は、午前九時ころから午後五時ころまで講義、講演、参加者の経験交流等がなされ、午後七時ころから夕食会が行われる。三日目は、午前中の時間に、右同様の講義等があり、午後からは自由時間となり、参加者は観光、買い物等を楽しむことができる。四日目は、午前中に卒業式を行い、午後の便で帰国する。香港研修は、毎回右のとおり三泊四日で行われ、日程もほぼ同一であつた。

原告は、香港研修のたびに研修費ないし受講料名義で香港本社宛送金を行つたが、右の受取人取引銀行の口座の名義人はIMMI社となつており、右金員は全額GPI社が受領しているものである。なお、参加者一人当たりの送金額は、原告とGPI社間の協議によるものではなく、GPI社側で独自に決定し、これに日本支社が異議をとなえることはなかつた。

昭和四九年期及び昭和五〇年期における右送金に係る香港研修費の内訳は、次表のとおりである。

(1) 昭和四九年期

〈省略〉

(2) 昭和五〇年期

〈省略〉

以上の事実が認められ、右認定を履すに足りる証拠はない。

2  ところで、原告は、本件香港研修は原告がGPI社に委託して行つた委託研修であるから、右送金に係る香港研修費は、全額、法人税法一四一条、一四二条、同法施行令一八八条一項一号所定の費用に該当する旨を主張するので、原告とGPI社間の研修委託契約の存否及び香港研修の性格について検討する。

(一)  税務調査時における原告役員らの供述状況

社印及び代表者印の成立は当事者間に争いがなく、その余は証人高橋利一郎の証言により真正に成立してものと認められる乙第一号証、証人平田小二、同赤沢正生、同高橋利一郎(後記措信しない部分を除く。)の各証言によれば、次の事実が認められる。

被告所部係官は、原告の昭和五〇年期の法人税の調査にあたり肩書地所在の営業所に臨場し、高橋利一郎から事情聴取をしたり、備え付けに係る帳簿書類の調査を行つたが、その際、高橋は、香港研修が日本支社の企画運営によるものである旨を供述していた。また、被告所部係官平田が高橋に対して電話で本件研修の主催者を文書で提出されたい旨を依頼したところ、後日、高橋は、本件研修は「弊社が各ゼネラル・デイストリビュターから費用を預り、これをもつて弊社が企画し、開催、運営しているものであることを申上げます。」と記載した書面(乙第一号証)を提出した。また、被告所部係官赤沢正生は、日本支社による多額の外国為替及び外国貿易管理法違反事件が報道されるに及び、原告を再調査したが、その際、原告の役員及び従業員は、本件研修が委託研修である旨の供述は全くしなかつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人高橋利一郎の供述部分は、にわかに措信し難く、他の右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  香港研修の運営主体につて

被告の主張3(三)の事実中、香港研修に際しては高橋利一郎ほか原告の従業員が同行してゼネラルの世話をしていること、高橋利一郎がシエラトンホテルに対して香港研修に係る宿泊費用の一部を支払つたという外形的事実が存すること、以上の事実は、当事者間に争いがなく、右事実に原本の存在、成立ともに争いのない乙第一二号証、証人赤沢正生の証言により原本の存在、成立ともに認められる乙第二ないし第五号証、証人徳弘良樹、同高橋利一郎の各証言を総合すれは、次の事実が、認められる。

〈1〉香港研修の会場兼宿泊場所であつたシエラトンホテルは、昭和四九年期及び昭和五〇年期の宿泊日程、費用、各種サービス等につき直接日本支社のデイーブ・モリに対して提示している。〈2〉香港研修に際しては、高橋利一郎ほか日本支社の従業員七、八名が毎回同行して、参加者の案内、ホテル内の誘導、教材の手配、配付等一切の世話をしている。〈3〉右高橋は、ゼネラル・スクール終了後も香港に残り、ホテル側からの請求があつた後、原告本社の小切手で宿泊費用を支払つていた。

以上の事実が認められ、右認定を履すに足りる証拠はない。

右によれば、香港研修に必要な事務手続きは原告が行つたものというべきであり、本件香港研修は、原告が運営していたものといわなければならない。

(三)  航空運賃及び講師料について

被告の主張3(三)の事実中、原告は香港研修の渡航費である航空運賃を支払い、これを原告の費用として香港研修とは別途に計上していることは、当事者間に争いがない。

また、証人平田小二の証言により原本の存在、成立ともに認められる乙第一六号及び証人平田小二、同赤沢正生の各証言によれば、日本支社はGPI社から請求のあつた香港研修の講師料を直接スイス国所在シカゴ・フアースト・ナショナル・バンクの同社の口座に電信送金し、これを香港研修費とは別途損金に計上していることが認められ、右認定を履すに足りる証拠はない。

ところで、本件香港研修が委託研修であるとするならば、委託契約は一般に研修に必要な事務一切を受託者に一任する趣旨の契約であるから、そのために必要な費用すべて委託費の中から支出するのが通常であるのに、本件において航空運賃及び講師料が委託費とは別途支払われているのは不自然、不合理である。

(四)  委託契約書が存在しないことについて

本件においては、本件香港研修であることを直接基礎づける原告とGPI社間の委託契約書が存在しない。

原告は、委託研修であることの根拠として、公正証書に添付された昭和四六年一二月一五日付けゼネラル・スクール契約書(甲第二号証)が存在することを挙げ、証人ボイド・デイールは、右契約書は右日付けころフランチヤイズ契約書(甲第二〇号証)と同時に作成されたものである旨を供述する。

しかしながら、〈1〉証人平田小二の証言によれば、ゼネラル・スクール契約書は、前記税務調査及び外国為替及び外国貿易管理法違反事件の調査、公判手続の段階及び本件各処分についての審査請求の過程において提出されず、本訴において始めて提出されたものであること、〈2〉英国ロンドンの公証人が右契約書を公証した日は、昭和五六年一月一九日であつて、右契約書の作成日付けの日から九年以上も経過していること、〈3〉前掲甲第二〇号証及び乙第四〇号証によれば、ゼネラル・スクール契約書には、(A)、(B)及び3項等フランチヤイズ契約を前提とする約定が存在するにもかかわらず、フランチヤイズ契約書にはゼネラル・スクール契約書の存在を窺わせる文言は全く存しないばかりでなく、逆に12項において、フランチヤイズ契約以外を否定する内容となつていること等の諸事情に加え、GPI社と原告とは前認定のとおり極めて密接な関係にあることにかんがみると、右ゼネラル・スクール契約書はフランチヤイズ契約と同一時期に作成されたものではなく、後日本件香港研修費の損金性が問題とされるに至つてから作成された疑いが極めて高いものというべく、右ゼネラル・スクール契約書の存在をもつて、原告GPI社との間に研修委託契約が存在したと推認することはできないものといわなければならない。

また、原告は、右フランチヤイズ契約書の存在することを本件香港研修が委託研修であることの根拠として主張する。しかし、右契約書中には、GPI社の提供すべき役務の中に原告の販売員の教育、研修を日本国外で実施することが含まれていることを窺わせる条項は存在しないのみならず、仮に、香港研修が右フランチヤイズ契約に基づく委託研修であるとするならば、原告はGPI社に対し右フランチヤイズ契約に基づく役務の対価としてフランチヤイズフイを支払つているのであるから(原告は右フランチヤイズフイを経費として香港研修とは別途計上済みである。)、フランチヤイズ契約に基づく委託研修の実施と香港研修費の支出とが対価関係に立つことはあり得ないものというべきである。したがつて、右フランチヤイズ契約の存することをもつて、香港研修がGPI社に委託してなされた委託研修であることの根拠とすることはできないものといわなければならない。

原本の存在、成立ともに争いのない甲第一五号証には「本件研修は右契約(フランチヤイズ契約)に基づきGPI社が香港で開催した」旨の記載部分があるが、右部分は前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定判断を履すに足りる証拠はない。

(五)  委託研修を必要とする特段の事情が存在しないこと

一般に、企業などの団体が従業員あるいはそれと同視し得る者に対して行う研修は、まず当該団体において主催し、当該団体のみでは十分に研修の成果を期待し得ない事柄のみを他に依頼するのが合理的であるから、私企業が有償で委託研修を実施することにそれなりの理由及び必要性を基礎づける特段の事情が存するのが通常である。

これを本件についてみるに、本件は、原告の本店所在地である香港において実施する研修であるから、研修会場や宿泊施設の経営、滞在費の交渉等の事務を他社に委託する必要はおよそ認められず、まして、パナマに本社を置くGPI社に委託しなければならない必然性は全くないのであるから、原告が本件研修をGPI社に対して委託して行わなければならない特段の事情は存在しなかつたものというべきである。のみならず、実際にもこれらの事務は原告が行つたものであることは、前認定のとおりである。

(六)  香港研修費と実際に要したであろう滞在費との差があまりにも大きいこと

前記二―(三)の事実によれば、香港研修参加者一人当たりの送金額は、昭和四九年期一三万二五五三円(円未満切捨て)、昭和五〇年期一四万八七四三円(円未満切捨て)であるところ、後記認定のとおり、実際に要したであろう香港滞在費用は参加者一人当たり四万円足らずあつて、香港研修費は、GPI社の相当の利益を見込んだとしても委託費として不相当に高額というべきである。

また、仮に、右送金が委託研修費の送金であると仮定するならば、原告は右一人当たりの送金額一三万二五五三円の他に往復の航空運賃及び講師料を別途負担していたのであるから、右負担額はゼネラル・スクールの参加費用(昭和四九年当時夫婦一組当たり二一万円-一人当たり一〇万五〇〇〇円)を大幅に上回ることとなるところ、このように、営利企業である原告が、参加者からの徴収金の金額を大幅に上回る金額を研修の費用に充当することは、いかにも、不自然、不合理である。

原告は、GPI社の荒利益の中には、教材費、講師料、教授法及び教材開発費、一般管理費等が含まれているので、香港研修は決して高額ではない旨を主張する。しかしながら、教授法及び教材開発費は通常講師料に含まれるものであるうえ、右講師料が香港研修費とは別途支払われていることは、前認定のとおりであり、また、前掲乙第九号証及び証人赤沢正生の証言によれば、原告は教材費においては印刷物等として別途損金計上していることが窺われるのであつて、原告の右主張は理由がないものというべきである。

以上認定の諸事情、ことに本件香港研修の運営は原告が行つたものであること、原告GPI社とのゼネラル・スクール契約書には多大の疑問があつて研修委託契約の存在を基礎づけるに足りないものであること、原告にはGPI社に本件研修を委託しなければならないような特段の事情は存在しないこと、本件送金に係る香港研修費は実際に要した滞在費と比較してあまりにも高額であつて合理性がないこと等にかんがみると、原告とGPI社間において本件香港研修を委託する旨の契約は存在しなかつたものというべきである。そして、原告がIMMI社を頂点とする国際的マルチ商法を営む系列会社のうちGPI社の下部組織であつて、実質的には同社の子会社であることに照らすと、香港研修の送金は、研修費に名を借りた利益の送金たる性質を有するものといわなければならない。したがつて、香港研修の全額が法人税法一四一条、一四二条、同法施行令一八八条一項一号所定の費用に該当するものということはできず、実際に原告が香港研修で要した費用のみがこれに該当するものといわなければならない(なお、本件は外国法人である原告の日本支社の国内源泉所得に係る損金の否認に関するものであり、外国法人の国内源泉所得に係る損金に算入されるべき金額は、法人税法第二二条三項三号所定の資本等取引以外の損失の場合、外国法人の国内において行う業務又は国内にある資産について生じた損失の額に限られている(法人税法施行令一八八条1項一号)から、本件香港研修費の送金が原告の香港本社がGPI社に対して行つた利益の配当又は寄付に当たるかどうかは、これを確定する必要がないものといべきである。ただし、原告の香港本社がGPI社に対してした金員の支払いが利益の配当または、寄付に当たるとしても、それが原告の国内において行う業務又は国内にある資産について生じた損失に当たらないことは明らかというべいであるからである。)。

3(一)  これに対して、原告は、香港研修送金のために日銀へ提出された支払い許可申請書及びその添付書類に送金の目的及び理由が記載されていることを理由として、本件研修が委託研修である旨を主張するが、右関係書類である甲第一四号証の三の一ないし第一四号証の五の一一の中に、香港研修が委託研修であることを明確に示す書類は存しない。 また、原告は、昭和四九年四月一七日付け支払許可申請書の「7その他の参考事項」の欄に「香港におけるセールスマン委託研修費」と明記されていることから、香港研修を委託研修である旨を主張する。

なるほど、証人高橋利一郎の証言により原本の存在、成立ともに認められる甲第一四号証の四の一によれば、右記載がなされていることが認められるが、右記載がいつ、誰によつてなさられたのであるかを明確にする証拠がないのみならず、他方、証人徳弘良樹の証言により原本の存在、成立ともに認められる甲第一四号証の三の三、証人高橋利一郎の証言により原本の存在、成立ともに認める甲第一四号証の四の二によれば、日本支社が第四回香港研修費二一万米ドルを香港本社に送金するために日銀に提出した申請理由書には「今般香港に於て弊社の主催するビジネス・セミナーに出席する者は………」「今般、弊社は本社を通じ……米国のインターナショナル・マーケテイング・マネジメント社と連絡が取れ、香港に於て特別セミナーを開催する運びとなりました」と記載され、また、右同様第五回の香港研修費一四万米ドルを送金するための申請理由書にも同様の趣旨の記載があることが認められ、右事情にかんがみると、前記「委託研修費」の記載は、前記認定判断を履すに足りないものというべきである。

更に、原告は、ゼネラル・スクールの招待状に招待者がGPI社であることが明記されていると主張するが、しかし、成立に争いのない乙第二五号証によれば、原告が旅行会社を通じ香港研修参加者に配付した旅行手続御案内には「此の度のゴールデンケミタル主催・香港ゼネラル・スクールに参加されるにつき……」と記載されているのであつて、原告の右主張は理由がない。

(二)  次に、原告は、本件香港研修は国外で行われた役務提供であり、これにより生ずる原告の所得は国内源泉所得に当たらないから益金の額に算入すべきでない旨を主張する。

しかしながら、本件香港研修は、前記のとおり、原告の日本国内における最上級の販売員であるゼネラルを対象とする研修であつて、これよにつて収益をあげるこいう性質のものではないというべきであるから、原告が主張するように本件香港研修によつて原告に所得が生じたという関係があることを認めることはできず、原告の右主張は理由がないというべきである。

もつとも、この点について、原告は、本件香港研修費には、原告がゼネラルから徴収した資格取得金の一部がその源泉としてあてられているので、国内源泉所得に当たらないと主張するが、しかしながら、前掲乙第二六、第三二、第三三号証及び証人高橋利一郎の証言によれば、ダイレクトがゼネラルに昇格する際には、当該ゼネラルは、その所属していたゼネラルの有する斡旋料受領権にたいする精算代金の名目で、原告の要求に基づいて、本件資格取得金(昭和四九年当時四二万円)を原告に支払うことになつているところ、この資格取得金は、ゼネラルが下位の販売員であるダイレクトなどよりも有利な条件で原告の取扱商品を購入することができる地位を取得するこめの対価であると認められるから、右資格取得金は、原告の日本国内におけるたな卸資産の譲渡に付随して生ずる所得(法人税法施行令一七六条一項一号)として国内源泉所得に該当するものといわなければならない。

更に、原告は、香港研修費の源泉である本件資格取得金は、原告の昇格ダイレクト(ゼネラル)からの預り金であるから、益金ではない旨を主張する。

しかしながら、前掲乙第二六、第三二、第三三号証及び証人高橋利一郎の証言によれば、原告は、本件資格取得金のうちから、原告の定める金額を先輩ゼネラルに支払い、その余の残金については販売員の指導、その他のために原告が取得することとされていること(ゼネラルデイストリビューター契約書6項)が認められ、右認定に反する証拠はない。 右によれば、原告が先輩ゼネラルに対して支払うべき金額は原告の任意により変更されえるものであるから、当該ゼネラルは具体的な権利として右金員の一部を自己のための預り金として返還を求め得る法的地位にあるものとは到底いうことができない。

また、原告は、幹資格取得金のうち半分はゼネラル・スクールの参加費として受領した預り金である旨を主張する。

しかしながら、前掲乙第三三号証によれば、原告が香港においてゼネラル・スクールを開催すべきことを義務づけた条項は存しないのみならず、資格取得金をそのために保管すべきことを命じた規定もないのであるから、右資格取得金は、前記のとおり、有利な地位取得の対価というべきであつて、預り金の性質を有するものではないものといわなければならない。

したがつて、原告の香港研修に係る所得は国内源泉所得に該当しないとする原告の主張はいずれも理由がない。

4  そこで、以下、原告が本件香港研修のために支出した費用について検討する。

証人赤沢正生の証言により真正に成立してものと認められる乙第六号証及び同証人の証言によれば、原告が香港研修で要した費用の実額は把握することができないが、これに要したであろう費用としては、〈1〉香港への往復航空運賃、〈2〉講師料及び教材費、〈3〉研修会場費、〈4〉通訳機器使用料、〈5〉宿泊費、〈6〉食事代、〈7〉サービス料及び税金、〈8〉空港からホテルまでの往復バス料金、〈9〉市内観光費があり、他に香港研修に際して原告が支出した費用が存することを窺わせる主張及び証拠はないから、これに尽きるものというべきである。

(一)  香港への往復航空運賃について

原告が香港研修のための渡航費である香港への往復航空運賃を香港研修とは別途に支払い、これを原告の費用として香港研修費とは別途に損金として計上していることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

(二)  講師料及び教材費につて

原告が香港研修に係る講師料及び教材費を香港研修とは別途に損金として計上していることは、前認定のとおりである。

(三)  研修会場費及び通訳機器使用料について

前掲乙第二、第四号証、証人赤沢正生の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証の二及び同証人の証言によれば、原告が香港研修で使用したヒルトンホンコンホテル及びシエラトンホンコンホテルは本件研修に際し会議室及び通訳機器を無料で提供していた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  宿泊費について

前掲乙第二、第四号証及び証人赤沢正生の証言によれば、香港研修における宿泊費の実額は宿泊部屋の種類及び各部屋の人員明細が不明のため把握できないが、参加者全員が料金の割高のシングルルームに宿泊したものとして推計すると、昭和四九年期における参加者一人当たりの宿泊費は基本料金八〇香港ドルに一〇パーセントのサービス料及び二パーセントの税金を加えた八九・六香港ドルに宿泊日数三を乗じた二六八・八〇香港ドルであり、昭和五〇年期における宿泊日は、基本料金一〇〇香港ドルに右同様のセービス料、税金を加えた一一二香港ドルに宿泊日数三を乗じた三三六・〇〇香港ドルであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(五)  食事代について

前掲乙第四号証及び証人赤沢正生の証言によれば、香港研修中における参加者の食事代は実額で把握ずきないが、これを合理的に推計すると、昭和四九年期における一人当たりの食事代は、〈1〉朝食代三九・六香港ドル(基本料金一二ドルにサービス料一〇パーセントを加え、回数三を乗じたもの)、〈2〉昼食代七〇・一四香港ドル(基本料金二一・二五ドルに右同様サービス料を加え回数三を乗じたもの)、〈3〉夕食代一一五・五香港ドル(通常の夕食メニューの基本料金三五ドルにサービス料を加え、回数三を乗じたもの)、〈4〉コーヒー代八・八香港ドル(基本料金二ドルにサービス料一〇パーセントを加え、研修期間中四回飲んだものとして、右回数を乗じた金額)の合計額二三四・四四香港ドルであること、昭和五〇年期における一人当たりの食事代は、〈1〉朝食代四四・五五香港ドル(基本料金一三・五〇ドルにサービス料の一〇パーセントを加え、回数三を乗じたもの)、〈2〉昼食代八二・五香港ドル(基本料金二五ドルに右同様サービス料を加え、回数三を乗じたもの)、〈3〉夕食代一二五・四香港ドル(通常の夕食メニューの基本料金三八ドルにサービス料を加え、回数三を乗じたもの)、〈4〉コーヒー代一〇・五〇香港ドル(基本料金二・四〇ドルにサービス料を加え、研修期間中四回のんだものとして、右回数を乗じた金額)の合計額二六三・〇一香港ドルであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(六)  サービス料及び税金について

香港研修における宿泊及び食事に係るサービス料及び税金は右(四)及び(五)に含まれて計算さており、他にサービス料等を支払つたことを窺わせる証拠はないから、右以外には存在しないものと認められる。

(七)  空港からホテルまでの往復バス代について

前掲乙第三、第六、第一七号証の二及び証人赤沢正生の証言によれば、香港空港から会場のホテルまでの往復バス代は昭和四九年期及び昭和五〇年期ともに一人当たり一七・〇〇香港ドルであると認められ、右認定に反する証拠はない。

(八)  市内観光日について

前掲乙第六号証、第一七号証の二、証言赤沢正生の証言により真正に成立してものと認める乙第一七号証の一及び同証人の証言によれば、本件係争年度当時、香港島のバス観光は高くても一人当たり二五香港ドルであつたとことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右によれば、原告が香港研修で実際に要した費用として損金に算入すべき金額(研修滞在費)は、(四)宿泊費、(五)食費代、(七)空港とホテル間のバス代、(八)市内観光費の合計額であり、昭和四九年期五四四・八四香港ドル、昭和五〇年期六四一・〇一香港ドルとなる。

そこで、香港研修のうち右研修滞在費を上回る金員(研修剰余金)を算出すると次表のとおりである。

(昭和四九年期)

〈省略〉

(注) 円換算率は東京銀行対顧客電信売相場による。

(昭和四九年期)

〈省略〉

(注) 円換算率は東京銀行対顧客電信売相場による。

三  以上によれば。原告の昭和四九年期分所得金額は別表三〈1〉ないし〈5〉を加算した三億三一一〇万七三一三円から同表〈7〉及び〈8〉の合計額三四六万二〇六〇円を控除した三億二七六四万五二五三円となり。昭和五〇年期分所得金額は別表四〈1〉乃至〈5〉を加算した一億一九一〇万四五五三円から同表〈7〉の二〇一五万一八四〇円を控除した九八九五万二七一三円となるところ。本件各更正に係る原告の所得金額は右金額の範囲内ないしこれと同額であるから、被告のした本件各更正に所得を過大に認定した違法は存しないものといわなければならない。

また、右によれば、原告は本件係争年度分法人税の確定申告に際し所得金額及納付すべき税額につき過少申告を行つたことになるから、被告が国税通則法六五条一項に基づき本件各更正によりそれぞれ新たに納付すべき税額(本件所得金額にたいする源泉所得税控除後の法人税額別表五2記載のとおりであることは、弁論の前趣旨により明らかであり、本件各更正前の源泉所得税控除後の法人税額が同表3記載のとおりであることは、当時者間に争いがない。)である昭和四九年期分五八四三万五〇〇〇円、昭和五〇年期分三八七四万円(同法一一八条三項により一〇〇〇円未満切捨て)にそれぞれ一〇〇分の五を乗じた昭和四九年期分二九二万一七〇〇円、昭和五〇年期分一九三万七〇〇〇円(同法一一九条四項により一〇〇円未満切捨て)の過少申告加算税を賦課した本件各決定もまた適法というべきである。

四  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官小磯武男は転補のため、裁判官金子順一は転官のため、いずれも署名押印することができない。裁判長判官 宍戸達徳)

別表一(自昭和四九年一月一日至昭和四九年一二月三一日事業年度)

〈省略〉

別表二(自昭和五〇年一月一日至昭和五〇年一二月三一日事業年度)

〈省略〉

(所得金額の欄△は、欠損金額である)

別表三

〈省略〉

別表四

〈省略〉

△は欠損金額を示す

別表5 本件各事業年度の過少申告加算税

〈省略〉

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